2009年 6月 12日

堕天使拷問刑(飛鳥部勝則)

ちょっと前に読み終わったので、久々に書評としてあげてみようと思う。
いわゆるバカミスなんだけど、バカミスとひと言で片づけるにはもったいない怪作。

不慮の事故で両親を亡くした主人公の少年が、親族を頼って田舎町に越してくるところから物語は幕を開ける。
語られる事件としては、「ほんのわずかのあいだに同時に首を斬られた母娘3人、そして消失した犯人」だとか、「密室内部で全身の骨という骨を砕かれて殺された老人」だとか、とにかく派手で牽引力がありそうなんだけど、そんな本格ミステリ的にはとてもおいしい事件をほったらかしにして、怪奇小説風にお話は進んでいきます。
怪死した祖父の影響で日々エスカレートする主人公くんへの受難が物語の佳境に至りクライマックスを迎え、「これ本当に収拾つくのか?」と疑問を抱かざるを得ない終幕直前のカタストロフィは、まさに圧巻のひと言。
そのあと解き明かされる真相も、それはもう笑いたくなるような壮絶なバカトリック。いや、いい意味で。特に犯人の犯行不可能性を補強していたとある人物の行動というのが、おいおいそんなんありなのかよと。
とまあさんざん楽しませてもらったわけですが、終章で叙情的に締められてしまって、不覚にもしんみり。「ジョン・ディクスン・カー+ボーイ・ミーツ・ガール」という帯の惹句も案外的を射ていたのかもしれません。
どう考えても玄人向け以外のなにものでもないけれど、キワモノスキーならぜひ、ぜひ、読むべき。「バカミス」「本格怪奇」「電波ヒロイン」、こんな単語に魅かれるあなたに。

ところで、帯の裏に挙げられていたいくつかの煽情的な単語なんですが――

「一瞬にして切られた母娘3人の首/捩られて関節のなくなった老人の死体/悪魔の召喚/ツキモノイリとツキモノハギ/私刑と死刑/町を這うもの/赤い蟹女と蟹子供/獣姦坊主/オカルト研究/ドラキュラとミイラ男/バベルの塔を髣髴させる美術館/月と少女」

読む前の感想:何だこれ。
読んだあとの感想:だいたい合ってる。

※ところでカテゴリを書評-2009にしようと思ったら2009がなくて追加権限もなかった。どうすべきか。

カテゴリー: 投稿者:ひ @ 2:07 am

2008年 11月 6日

ハローサマー、グッドバイ(マイクル・コーニイ)

政府高官の息子ドローヴは、今年も夏休みを過ごすため両親とともに港町パラークシを訪れ、思いを寄せる宿屋の娘・ブラウンアイズとの念願の再会を果たした。
ブラウンアイズの友人・リボンやその弟スクウィント、両親の友人の息子・ウルフを交えていっしょに遊びながら、ふたりの少年少女は次第に親交を深めていく。
だが、隣国とのあいだで行われる戦争が平和な港町にもその影を落としていき、やがて夏の終わりを象徴する「粘流(グルーム)」が到来する……

冒頭に掲げられた「作者より」に、「これは恋愛小説であり、戦争小説であり、SF小説であり、さらにもっとほかの多くのものでもある。」とある通り、
本書はこれらさまざまな要素がすべて渾然一体となって綺麗にひとつの物語としてまとまった傑作です。
舞台は「地球に似た惑星」であり、つまり登場人物も全員異星人です――が、おそらく意図的にそれを意識させないように書かれています。
前半は少年少女の甘酸っぱいラブストーリーとして描かれ、後半から一気にSF設定と戦争要素が物語に関わってくるのですが、それを効果的にするためでしょう。
恋愛要素の強い前半は正直こっぱずかしいなーなんて思いながら読んでいたんですが、後半に急展開を見せるにしたがってぐいぐい引き込まれていきました。
あれよあれよというまに物語はどんどんそのスケールを大きくしていき、最後に待ち受けるのは史上屈指のどんでん返し。やられましたよ。
ミステリでいう「最後の一撃」、フィニッシングストローク。綺麗にひっくり返されたうえに読後感もいい。こんな作品がずっと絶版になっていたなんて。

最初はサンリオSF文庫から邦訳された本書は、長らくのあいだ絶版になっていたのですが、今年の5月に河出文庫から復刊されました。
どうやら続編の邦訳も来年出る予定だそうなので、これを機にほかの絶版になっている作品も復刊してくれることを切に望みます。切に。

カテゴリー: 投稿者:ひ @ 11:45 pm

2008年 7月 6日

白楼夢 海峡植民地にて(多島斗志之)

1920年代、英国領シンガポール。多くの勢力と思惑とが混沌と渦巻くこの街に単独渡り、
偶然の成り行きから、1年半で街の顔役として活躍することになった日本人青年・林田は、
大物華僑の娘・呂白蘭の殺害容疑をかけられ、警察と呂一族双方から追われる身となる。
林田は執拗な追跡をかわしつつ、自分を罠にかけた黒幕を捜しだそうと決意するが――

「白蘭殺人事件」「回顧」とそれぞれ名づけられた、現在過去ふたつのパートを交互に描き、
林田の逃亡劇におけるサスペンスの醍醐味や、当時の情況を踏まえた歴史小説のロマン、
そしてなにより最後に明らかになる驚きの真相とどんでん返しという本格ミステリ的手法など、
さまざまなジャンルの魅力を備えた、多島斗志之ならではの作品であると言えるでしょう。
凡百の手にかかればどのジャンルとしても中途半端なできで終わってしまうであろうところを、
すべての面において標準以上のものに仕立て上げてくる作者の手腕には唸らされます。

寡作かつ絶版もけっこうあるという作家ですが、もう少し名が知れてもいいんじゃないでしょうか。
刊行から12年目にして初の文庫化を成し遂げてくれ、出会わせてくれた東京創元社に感謝。
そして大丈夫なんでしょうか経営方針。

カテゴリー: 投稿者:ひ @ 12:25 am

2008年 6月 27日

星を継ぐもの(J・P・ホーガン)

月面で発見された、現代人のものと思しき真紅の宇宙服を着た死体。
すぐさま綿密な調査が行われたが、そこで驚くべき事実が判明する。
「彼」はどの基地にも所属しておらず、それどころか人類ですらなかった。
調査の結果は、「彼」が少なくとも5万年前に死んでいたことを示したのだ――。

ジェイムズ・P・ホーガンによるSFミステリの古典的名作。創元SF文庫刊。
主人公の物理学者ヴィクター・ハントと生物学者ダンチェッカーの対立を主軸に、
「コリエル」と名づけられた5万年前の死体に秘められた謎について迫っていく展開。
そんな中、木星の衛星ガニメデで地球のものではない宇宙船が発見され、
その関連を疑われるとともに謎は深まり、また解きほぐされを繰り返すことになります。
海外の、しかもハードSFということで、ちょっと取っつきにくいかもしれませんが、
登場人物もそう多くはないので、自分は予想していたよりすらすらと読めました。
ミステリとしての謎の魅力、SFとしての壮大さ、双方を兼ね備えた傑作だと思います。

カテゴリー: 投稿者:ひ @ 10:16 pm

2008年 6月 25日

百万のマルコ(柳光司)

戦争捕虜たちが長らく続く退屈を持て余すジェノヴァの牢。
そこに連れてこられた新入りの囚人、「百万のマルコ」は、
彼らの退屈から連れ出すため、不可思議な物語を話しはじめる。
大ハーン・フビライから派遣された地で体験したというそれらは、
一筋縄では行かない、奇妙な謎をはらんでいて――

『東方見聞録』などで知られるマルコ・ポーロが探偵役の連作集。
第1話「百万のマルコ」から、最終話「騙りは牢を破る」まで全13編、
マルコの話に潜む謎を囚人たちが解き明かそうとする結構は変わりません。

1.暇になった囚人がマルコの話を聞く
2-1.マルコが己の体験談を語りはじめる
2-2.マルコが無理難題をつきつけられる
2-3.肝心なところは伏せられ、めでたしめでたし、でマルコの話は閉じる
3-1.マルコの思いついた解決策について、囚人たちがあれこれ議論する
3-2.マルコによる種明かし

上記のような形で話が進められるので、推理合戦的要素も含まれています。
誰も勝ったことのない賭けに勝つための奇策をめぐらす「賭博に負けなし」や、
「謎かけ」それ自体を俯瞰して逆説的に捉えなければ解けない「雲の南」など、
よくできた推理パズルを物語にうまく組み込んで連作ミステリに仕立てている、
その手腕が巧みに冴えわたっていると言えるのではないでしょうか。

さらにそれだけで終わるということはなく、そこは創元お得意の「連鎖」連作集のこと、
全編を貫く物語の軸、一本線も用意されているところが飽きさせません。

逆説論理の美しさを堪能したい方にぜひお薦めしたい作品です。

※ちなみに、「百万」とは「il milione di frottle(=嘘つき)」の意で、
作中でもしばしば「百万」に「ホラふき」のルビがかぶせられています。

カテゴリー: 投稿者:ひ @ 11:22 pm
HTML convert time: 0.285 sec.
サイト管理者:響  鯖管理者:犬、
当サイトの全部あるいは一部の無断転載は禁止しております。
Copyright (C)saidaisuiri 1999-2010 All Rights Reserved.